ある港の思い出

あれは2006年の冬。

愛媛県の波方港で旅客フェリーを待っていた。
車で広島県に渡るためだ。

ふと堤防付近をウロつくオバハンに目が止まった。

年齢はおそらく50~60歳。
昔は美人だったかもしれないが、年齢に似合わないキツい化粧と毛皮のコートにチェックのパンツ。
そしてなぜか体育館シューズのような安っぽいスニーカーに、どこか残念な、ガッカリさせる何かを感じた。

こういう時の妄想は楽しい。

きっとあの人は経歴40年近いベテラン売春婦に違いない。
歳をとってからはこの小さな港町でフェリー客を相手に細々と商売しているに違いない。


乗船券を買いに行く途中、いつの間にか戻ってきていた彼女が話しかけてきた。

オニイサン、ヒトリ?

カタコトかよ!

ワタシ、フネデ、ヒロシマ、イクヨ
オニイサン、トシ、イクツ?

いや…えーと、29。

ワタシ、イクツ、ミエル?

…絶対そうくると思った。

そそくさと乗船券を買い、逃げるように車に戻った。
なんで俺がコソコソしてるんだ?


乗船すると本当に彼女も乗っていた。
俺に気付くと何故かめっちゃ笑顔。

持参していたノートパソコンで必死に何かしてるフリをする俺。
関わってはいけない、と俺の中の俺が言っている。


ウンコしようと入ったトイレの個室に落書きがあった。

ユリエ
ババ
3000円
クサイ
ボボ

!!

女性器や性行為を表す隠語。現在は福岡県福岡市およびその周辺の地域で主に性行為を表す方言だが、江戸時代には喜多川歌麿の浮世絵にも登場した女性器を表す古語である。

もしかして彼女がユリエ?
船上売春婦?
てゆーか、なぜ落書きもカタコトなんだ?

謎を解き明かす勇気はなかった。

売る売らないはワタシが決める―売春肯定宣言

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